診断回路

カルテ
09 /15 2014
某月某日

真っ白で、気は優しくて力持ち、ピレネー犬がやって来ました。
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なんでも、コンビニで買い物するために、外につないでおいて、
数分後に出てきたら、腰のあたりから出血していることに気付いたそう。
慌てて病院にやって来ました。

診察をしたところ、確かに、白い綺麗な被毛に、血らしきものがベットリ着いています。
毛を刈ってみると皮膚に不自然に2つ均等に並んだ穴が開いていました。
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飼い主さんは、毎日手入れをして、それまで全くそのような傷が無かったので、
買い物をしている間に、何者かによって、
鋭いもので傷つけられたのではないかと疑って仕方ありません。

私はその血液状のものと2つに並んだ傷をよく観察しました。
すると血のように見えた赤い液体は、完全な血液ではなく、
血液と滲出液(しんしゅつえき:炎症があるときに出る体液)であることが分りました。

また、細い綿棒で傷口の穴の中を探ってみました。
すると、隣り合う穴は双方、皮下でつながっていました。
綿棒に付いた滲出液をスライドガラスにこすり付け、
染色し、顕微鏡でのぞいてみました。
そうすると、白血球の一種、好中球と細菌がたくさん見られました。

私は、それを見て、
「飼い主さん、絶対とは言えませんが、何者かによる刺し傷ではなく、
おそらく皮下に炎症がちょっと前から起こっていて、
それが、破裂したものですよ。

だから、こんなにたくさんの血液の様な滲出液も出ているのですよ。
犬の場合、皮膚はルーズですし、血管が少ないので、
刺し傷だけではこんなに出血することは稀です。

滲出液は、炎症の時に出る体液で、
その中に好中球や細菌がたくさん出ていますので、
少し前から表からは分らない状態の炎症が皮下で進んでいたのでしょう。」

飼い主さん、はじめは解せない顔をしていましたが、
繰り返し説明をすると、「おそらくそうであろうという状況」を納得してくれました。
抗生剤と消炎剤を数日飲ませたところ、すぐに良くなりました。

獣医師が病気を診断する場合、
1)その異常な状態(起きている症状)において、何が考えられるか、
客観的に病気のリストを頭の中で羅列します。可能性の高いものから、稀なものまで。

2)その病気リストに対して、問診や発生状況(慢性と急性とか単発とか多発とか…)、
動物の種類、年齢、病歴、様々な検査結果などを加味、根拠をもって、
そのリストに含まれる多数ある疾病をひとつひとつ消去法で潰して行きます。

3)残ったものが、その病気である、と診断します。
  (根拠をもって消去しきれない場合、「可能性がある」という暫定的な診断、仮診断になります。)

この一連の作業を「類症鑑別と除外診断」と言います。

この方法が動物の診断方法です。
除外診断なくして、動物の診断は出来ない、とまで言われています。
決して、見た目と経験との直感で診断するものではありません。

そんなことをすれば、診る人の経験と気分によって大きな相違が出てきてしまうからです。
もちろん経験も重要ですが、より重要なのは、客観的な視点で問題を見つめ、
鑑別リストをたくさん挙げ、「根拠」をもって消去していくことなのです。



獣医さんは動物を一瞥して、経験でなんでもすぐに病気かどうか、
写真や電話だけで判るハズ、
と思ってしまうかもしれませんが、
「言葉を話さない動物」であるが故、より慎重に、
そのようなプロセスを踏んで診断を行います。

そう考えると、警察が犯人の供述全く無しに、
残された証拠や現場検証で、
事件を解決していく作業に似ていますね。

コメント

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Re:診断回路

世間を騒がせている盲導犬の傷害事件も、これと同じ疑いがあると俄かに噂されていますよね。
ペットへの愛情ゆえに飼い主が勘違いで思いこむ事もあるんですね。

そうなんですね~♪ やはりTVなどの報道は絶対に正しいとはいえないようですね。
あの盲導犬の事件?!も飼い主の勘違いかもしれないですよね~。。。

Re:診断回路

通りすがりさま
真由♪さま

コメントありがとうございます。
今回の件は、治ったので、迷宮入りでしょうが、
故意によるものであれば、ホントに起きて欲しくない事件でしたね。

Re:診断回路

追伸ですが、例の事件、こんな意見も出て来たようです。
http://news.livedoor.com/article/detail/9479253/

田向健一

動物病院の院長をやっています。
ペットの病気のことならたいていのことはこなしています。
カメやウサギからピットブルまで、外科も内科、眼科も歯科も行います。
動物、植物を含め、命あるものが大好きです。